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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第69巻(平成28年)第3号掲載)

細菌数は食品の微生物汚染の程度を示す指標となる. 細菌数から食品の腐敗や食中毒発生の危険性などを推定することができるが,対象とする細菌の特徴,算定方法の違いによりその解釈が異なる.今回は,食品の汚染指標菌について整理する.


質問 1:次のうち正しいものはどれか.

  • a.一般細菌数(生菌数)は,好気的条件下で増殖する中温細菌数を計測して求めるもので,ブリード法とも呼ばれる.
  • b.大腸菌群(coliforms)は,ブドウ糖を分解して酸とガスを産生する好気性・通性嫌気性グラム陰性菌の総称である.
  • c.大腸菌群のうち 44.5℃で増殖するものを糞便系大腸菌群(faecal coliforms)という.

質問 2:次のうち正しいものはどれか.

  • a.乳等省令により牛乳の細菌数(一般細菌数)は1ml あたり 400 万以下と規定されている.
  • b.大腸菌群が汚染指標菌として用いられるのはO157 などの病原性大腸菌を多く含むからである.
  • c.大腸菌群にはヒトの糞便とは無関係なものも含まれるので,本菌群が検出されても必ずしも糞便汚染を意味しない.

質問 3:次のうち正しいものはどれか.

  • a.一般細菌数は血液寒天培地を用いて計測する.
  • b.大腸菌群数の算定法には液体培地を用いた最確数法と寒天培地を用いたコロニー計数法がある.
  • c.糞便系大腸菌群数の算定には IMViC 試験が用いられる.
解答と解説

質問 1 に対する解答:
正解:c
a:誤り.ブリード法は総菌数を算定する方法.
b:誤り.乳糖を分解して酸とガスを産生.


質問 2 に対する解答:
正解:c
a:誤り.5 万以下と規定されている.
b:誤り.検出された大腸菌群に病原性の大腸菌が多く含まれるわけではない


質問 3 に対する解答:
正解:b
a:誤り.標準寒天培地を用いて計測する.
c:誤り.算定には EC テストが用いられる.


質問 1~ 3 に対する解説:
一般細菌数(生菌数)は,好気的条件下で増殖する中温細菌のコロニー数を標準寒天培地を用いて計測して求める.すべての生菌を含むわけではなく嫌気性菌,微好気性菌,好塩菌,低温発育菌などを計測することはできない.一般細菌数の高い食品は原材料の汚染,非衛生的取り扱い,温度管理不良などを示唆するものであり,危険性の高い食品である可能性を示す.食品衛生法によりさまざまな食品で一般生菌数の規格が定められている.「乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)」では牛乳(加熱殺菌後)の一般細菌数は 1ml中 5万以下となっている.

食品中に存在する生菌と死菌の総和は総菌数と呼ばれ,検体中の菌を染色し直接顕微鏡で観察算定される.測定法はブリード法とも呼ばれる.「乳等省令」の規定では,生乳の総菌数は 1ml 中 400 万以下となっている.

大腸菌群は「グラム陰性,無芽胞桿菌,乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性または通性嫌気性の細菌群」として定義される.ヒトや動物の腸管内常在菌,大腸菌とその類縁菌を含む.糞便汚染のよい指標ではあるが,この菌群には自然界に広く分布するものも含まれるため,必ずしも糞便汚染を意味するものではなく,食品の衛生管理全般の尺度を示す指標菌として位置づけられている.特に,加熱後の食品から大腸菌群が検出されると衛生管理上問題があるとみなされる.大腸菌群の算定には寒天培地または液体培地が用いられる.それぞれ検出感度が異なり食品によって使用培地が定められている.寒天培地にはデソキシコレート寒天培地,液体培地には BGLB(ブリリアントグリーン乳糖胆汁)培地,LB(乳糖胆汁)培地とがある.寒天培地では発育した赤いコロニーの算定によって計測,液体培地では最確数法(Most Probable Number:MPN)法によって菌数を推定する.

大腸菌群の中で 44.5℃で発育するものを糞便系大腸菌と呼び,算定には EC テストが用いられる.EC 液体培地で 44.5℃ 24 時間培養し酸とガスの産生能を調べて菌数を推定する.生で喫食するカキや非加熱食肉製品などの成分規格として用いられる.

このように食品の衛生管理状態を微生物学的に評価するための指標には,特徴ある菌群が用いられ,それぞれ決まった計測法がある.適切な指標を選んで食品やその原材料の微生物学的品質を評価し,食の安全性を確保しなければならない.


キーワード:汚染指標菌,一般細菌数,大腸菌群,糞便系大腸菌群