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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第68巻(平成27年)第11号掲載)

質問 1:次の蚊媒介性感染症に関する記述のうち,正しいのはどれか.(複数解答)

  • 1 .デング熱の媒介蚊は日本に存在しない.
  • 2 .チクングニア熱は蚊を介してヒトからヒトへ感染が起こる.
  • 3 .ウエストナイル熱の増幅動物は豚である.
  • 4 .日本脳炎ウイルスがヒト以外の動物に感染しても発症しない.
  • 5 .黄熱にはヒト用のワクチンが存在する.

質問 2:次の人獣共通感染症に関する記述のうち,正しいのはどれか.(複数解答)

  • 1 .日本紅斑熱の日本における発生は北日本が中心である.
  • 2 .ペストはノミによって媒介される.
  • 3 .Q 熱は世界中で発生が報告されている.
  • 4 .重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はマダニによって媒介される.
  • 5 .ライム病は呼吸器疾患を主徴とする.
解答と解説

質問1に対する解答と解説:
1 . ×
デング熱は,フラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルスによる感染症で,アフリカ,中南米,アジアの熱帯及び亜熱帯地方で流行がみられる.デングウイルスはネッタイシマカとヒトスジシマカをおもな媒介蚊とする.日本にはネッタイシマカは存在しないが,ヒトスジシマカが広い地域に生息している.デング熱患者は高いウイルス血症を起こすことがあるので,ヒト→蚊→ヒトの経路で感染が起こる.日本への輸入例が毎年報告されている.2014 年の夏に東京を中心として日本各地でデング熱患者の国内発生が起こり,大きな社会問題となった.デング熱では発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,発疹などの症状が現れる.患者の一部において血漿漏出と出血傾向を主症状とするデング出血熱を発症する.感染症法では,デング熱は 4 類感染症に分類されている.

2 . ○
チクングニア熱はトガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスによる感染症で,アフリカ,アジア,南北アメリカの広い地域で流行がみられる.チクングニア熱患者は高いウイルス血症を呈するので,ヒト→蚊→ヒトの経路で感染が起こる.チクングニア熱はネッタイシマカだけでなくヒトスジシマカによっても媒介される.日本への輸入例も報告されている.チクングニア熱では発熱,関節痛,及び発疹を主徴とし,関節痛が数週間から数カ月にわたって続く場合がある.感染症法では,チクングニア熱は 4 類感染症に分類されている.

3 . ×
ウエストナイル熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のウエストナイルウイルスによる感染症で,アフリカ,ヨーロッパ,南北アメリカ,中東,中央アジア,オセアニアで流行がみられる.鳥類を病原巣動物もしくは増幅動物として,さまざまな種類の蚊が媒介動物となり,鳥類→蚊→鳥類の経路で感染環が形成されている.豚は増幅動物にはならないと考えられている.ヒトとウマが感染すると,重症例では脳炎を発症する.ウエストナイル熱は感染症法で 4 類感染症に分類されている.

4 .×
日本脳炎は,フラビウイルス科フラビウイルス属の日本脳炎ウイルスによる感染症で,日本をはじめ東アジア,東南アジア,南アジアで流行がみられる.日本脳炎の増幅動物は豚であり,コガタアカイエカが媒介蚊となっている.ヒトでの発症率は 0.1~0.3%といわれている.ヒトの重症例では脳炎を呈して死亡することも多い.免疫のない初産豚が感染すると異常産が起こる.ウマが感染すると重症例では脳炎を発症することがある.日本脳炎は感染症法で 4類感染症に分類されている.

5 .○
黄熱は,フラビウイルス科フラビウイルス属の黄熱ウイルスによる感染症で,アフリカ,中南米の熱帯及び亜熱帯地域で流行がみられる.熱帯雨林地帯ではサル→蚊→サルという感染環が成立しているが,流行地の都市ではヒト→蚊→ヒトという感染環が成立する.ヒトの重症例では臓器からの出血や黄疸がみられる.弱毒生ワクチンが市販されている.黄熱は感染症法で 4 類感染症に分類されている.


質問2に対する解答と解説:
1 . ×
日本紅斑熱は,リケッチア科リケッチア属のRickettsia japonica による感染症で,キチマダニなどのマダニ類によって媒介される.関東以西の日本で発生があるが,東日本や北日本ではほとんど発生がみられない.
ヒトの感染例では発熱,全身の発疹,及び刺し口の潰瘍を呈する.死亡例も知られている.日本紅斑熱は感染症法で 4類感染症に分類されている.

2 .○
ペストは腸内細菌科の Yersinia pestis による感染症で,日本では現在発生はないが,アフリカ南部,インド北部,中国,北アメリカ南西部などで現在も発生がみられる. げっ歯類が病原巣動物であり,ヒトはノミの吸血によって感染する.ヒトの感染では腺ペスト,敗血症ペスト,及び肺ペストなどの病型が知られており,致死率は非常に高い.ペストは感染症法で 1 類感染症に分類されている.

3 .○
Q熱はコクシエラ科の細胞内寄生菌であるCoxiella burnetii による感染症で,日本を含む世界各地で発生が報告されている.自然界ではダニと野生動物の間で感染環が成立しているほか,家畜や伴侶動物の間でも感染環が形成される.ヒトはダニの吸血,感染動物からの排泄物の吸引,殺菌不十分な乳製品の摂取などによって感染する.Q熱は感染症法で 4 類感染症に分類されている.

4 .○
SFTS は 2011年に中国で初めて発見された新興感染症で,ブニヤウイルス科フレボウイルス属の SFTS ウイルスを病因とする.中国のほかに日本や韓国で発生が報告されている.日本においては西日本に発生が集中している.ヒトへの感染はおもにマダニ類の吸血によって起こると考えられている.患者は発熱,消化器症状,神経症状,出血症状などを呈し,死亡例も報告されている.SFTS は感染症法で 4 類感染症に分類されている.

5 .×
ライム病はスピロヘータ科の Borrelia 属菌による感染症で,北半球の国々で発生がみられる.日本では北海道や長野県で発生がみられる.ライム病のおもな病原巣動物はげっ歯類や小鳥で,マダニ類が媒介動物となってこれらの動物との間で感染環が形成されている.ヒトは感染マダニの吸血によって感染し,遊走性紅斑,関節炎,神経症状などの多彩な症状を示すが,呼吸器症状を示すことはない.ライム病は感染症法で 4 類感染症に分類されている.


キーワード:人獣共通感染症,媒介節足動物,蚊,マダニ,ノミ