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一般的に獣医師というと「動物の病気を治療する」というイメージがありますが、養豚管理獣医師は農場の経営から動物の健康管理まですべてを含めた「トータルコンサルティング」に関われる仕事です。

有限会社サミットベテリナリーサービス

出身大学:
日本獣医生命科学大学
卒業年次:
平成18年度(2007年)
現在の所属:
有限会社サミットベテリナリーサービス

卒業後現在までの略歴

平成19年
群馬県(株)林牧場にて養豚飼養管理について学ぶ
その後現在まで、(有)サミットベテリナリーサービスの養豚管理獣医師として日本全国の養豚場へのコンサルティングに従事
平成23年
「PIG SIGNALSシリーズ日本語版」(ベネット)翻訳出版
平成26年
東京農工大学大学院 連合農学研究科博士課程修了

養豚管理獣医師とはどういうお仕事ですか?

私が所属しているサミットベテリナリーサービスは、日本全国の養豚場と契約を結び、農場に対して様々なサポート・アドバイスを行っている会社です。具体的な養豚管理獣医師の仕事としては、疾病発生時の病性鑑定等の対応はもちろん、豚が健康で順調に発育できるような飼養衛生管理全般(飼育、衛生、疾病対策、防疫、栄養、環境、設備など)に関する助言なども含まれます。さらに、生産データや財務指標に基づいた課題の抽出、スタッフ教育、農場HACCP(※)構築および運用補助、設備投資への助言なども重要な役割です。契約農場は、北は岩手県、南は沖縄まで90軒近くあり、私たち獣医師はこれらの農場を定期的に訪問し、すべての豚舎を見て回り、スタッフや経営者の皆さんにアドバイスをおこないます。

※HACCP(ハサップ/Hazard Analysis and Critical Control Point):食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等の 危害をあらかじめ分析( Hazard Analysis )し、その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点( Critical Control Point ) を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理の手法。
<厚生労働省のHPより引用>

なぜ養豚管理獣医師になろうと思ったのですか?

大学時代、私は実験が好きだったので研究職での就職を希望していたのですが、実習で農家の方と共に働く喜びを知り、臨床の仕事に興味を持ちました。特に養豚管理に惹かれたのにはいくつか理由があります。ひとつ目は、「群管理」のダイナミックさ。大きな養豚場になると10万頭もの豚の管理に、獣医師として責任を持って関わることになるのですが、これほどの規模で動物を見る仕事はなかなかないと思います。ふたつ目は、「治療」より「予防」を重視して働ける点。動物にとっても生産者にとっても、病気になってから治るよりも最初から病気にならないほうが望ましいもの。自分の指導を通じて病気を未然に防げたときにはうれしいですね。そして三つ目は、「動物の健康」と「養豚場の健康(=健全な経営)」の両立に貢献できること。動物の健康維持は生産者の経営に直結する重要な要素ですから、私たち獣医師と生産者の皆さんは必然的に同じベクトルで養豚管理に取り組んでいくことになります。農場の財務指標など、経営にまで深く関われるところにもやりがいを感じます。

養豚管理の中で、特にどんなところに気をつけているか教えてください。

豚というのはかなり病気になりやすい動物なのですが、牛と比べると一頭あたりの価値が低いので、病気になってもあまり高度な医療を施すことができません。だからこそ予防がとても重要で、繊細な環境管理をおこない、病気の兆候をいち早くキャッチする必要があります。そのために私が気をつけているのは、「生産者の話をよく聞くこと」。農場ごとに気候や環境は全く違いますし、豚舎の設備、豚の品種、エサの種類などにも特徴があります。そうした詳細の情報を正確に収集した上で、科学的にベストな解決方法を生産者と話し合いながら考えるわけです。これまで携わった仕事の中には、生産システムを再構築することで豚の死亡率を8パーセントから1パーセントまで減らせたケースもありました。このように目標を達成できたときは生産者の皆さまと喜びを共有することができますし、獣医師として成長させていただけていることが励みになっていると実感します。

女性の目から見て、養豚管理獣医師という仕事はどう映りますか?

力仕事があるわけではないので、特に男女差のある仕事であると感じたことはありません。ただ、養豚管理獣医師は日本に数十名しかいないこともあり、日本全国へ頻繁に出張することになります。そのためか今のところは男性が多く、私のように全国で飛び回っている女性の獣医師はまだ少ないみたいです。もっと養豚管理獣医師を目指す若い女性が増えてくれたらいいですね。特に「国内外問わず、いろんな場所に行ってみたい」「自分のペースで働きたい」という女性にはピッタリの仕事だと思います。なぜなら仕事のスケジュールは農家と直接話し合い自分で決めることができるので、長めの休暇もとりやすいから。私も海外出張やプライベート旅行など、毎年1~3週間は海外に行かせていただいています。アメリカやヨーロッパで最新の知見や技術を学び、時には息抜きもする。おかげでモチベーションを保つことができています。

これから獣医師を目指す学生さんや、現在活躍中の女性獣医師のみなさんに伝えたいメッセージをお願いします!

一般的に獣医師というと「動物の病気を治療する」というイメージがありますが、養豚管理獣医師は農場の経営から動物の健康管理まですべてを含めた「トータルコンサルティング」に関われる仕事です。それだけに生産者の皆さんと強い一体感を持ち、同じ目標に挑戦するやりがいに満ちていると思います。日本各地の旅先でおいしいものを味わったり、出張で海外に行けたりするという役得もあります(笑)。今後結婚することがあっても、ライフワークとしてこの仕事を続けていきたいと考えています。獣医師としての仕事もプライベートも充実させられる職業ですので、興味がある方はぜひいっしょにがんばりましょう!