獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第79巻(令和8年)第7号掲載)
げっ歯類媒介性の人獣共通感染症は人に重篤な症状を示すものがあるため,獣医師として正確な知識を有している必要がある.今回は,ウイルス性のげっ歯類媒介性人獣共通感染症について理解を深める.
質問1:ハンタウイルス肺症候群について正しいものを1 つ選びなさい.
- a.ハンタウイルス肺症候群は感染症法上の二類感染症である.
- b.ハンタウイルス肺症候群は検疫感染症である.
- c.ハンタウイルス肺症候群は主にげっ歯類との直接的もしくは間接的接触によって感染するが,人から人へと感染することがある.
- d.ハンタウイルス肺症候群の発生地域はヨーロッパ諸国,ロシア,中国,韓国などのユーラシア大陸である.
質問2:南米出血熱について正しいものを1つ選びなさい.
- a.南米出血熱は感染症法上の四類感染症である.
- b.南米出血熱は検疫感染症である.
- c.南米出血熱はげっ歯類との直接的もしくは間接的接触によって感染するが,人から人への感染はみられない.
- d.アンデスウイルスは南米出血熱の病原体である.
解答と解説
質問1に対する解答と解説:
a.×
ハンタウイルス肺症候群は感染症法上の四類感染症である.ハンタウイルス科のウイルスを病因とするハンタウイルス感染症の一つで,発熱,頭痛,悪寒で始まり,重症化すると呼吸困難や心肺不全,ショックを引き起こす.特効薬はなく,重症化した場合は集中治療が必要となる.致命率は30%から50%である.
b.×
ハンタウイルス肺症候群は,検疫法上の検疫感染症そのものではないが,検疫法第34 条や関連法規において,特に水際対策が必要な「検疫感染症に準ずる感染症」として位置づけられている.検疫所では,ねずみ族が病原体を媒介するリスクを考慮し,船舶や航空機における「ねずみ族調査」や「ねずみの駆除」を実施し,国内侵入を防いでいる.
c.〇
ハンタウイルス肺症候群はげっ歯類の排泄物を吸い込んだり,げっ歯類に咬まれたりすることによって感染する.通常,本症の患者から人への感染は起こらない.しかし,ハンタウイルスの一種である,アンデスウイルスを病因とするハンタウイルス肺症候群では,人から人への感染が起こる場合がある.2026 年5 月,大西洋を航行中のクルーズ船でアンデスウイルスによるハンタウイルス肺症候群の集団感染疑いが発生した.
d.×
ハンタウイルス肺症候群は南北アメリカ大陸で発生がみられる.ハンタウイルスを病因とするもう一つのハンタウイルス感染症が腎症候性出血熱で,これはヨーロッパ諸国,ロシア,中国,韓国などのユーラシア大陸で発生がみられる.
質問2に対する解答と解説:
a.×
南米出血熱は感染症法上の一類感染症である.きわめて高い感染力と致死率を示すため,感染が疑われる人に対しては隔離や停留の措置がとられる.南米出血熱は,アルゼンチン出血熱,ブラジル出血熱,ベネズエラ出血熱,ボリビア出血熱,及びチャパレ出血熱の総称である.主な感染経路は,ウイルスを保有するねずみや,患者との接触である.発熱や消化器症状を呈し,出血傾向やショック,神経障害などの重篤な症状を伴い死亡することがある.致死率は30%に上るといわれている.
b.〇
南米出血熱は,検疫法第2 条に基づき,エボラ出血熱,ペスト,マールブルグ病などと並び,検疫所が監視・対策を行うべき「検疫感染症」の一つに指定されている.
c.×
南米出血熱の主な感染経路は,ウイルス保有ねずみとの接触や,ねずみの排泄物に汚染された食品の摂取,排泄物のエアロゾルの吸入などである.患者との接触によっても感染する.
d.×
南米出血熱の病原体は,アレナウイルス科のウイルスで,フニンウイルス(アルゼンチン出血熱),マチュポウイルス(ボリビア出血熱),ガナリトウイルス(ベネズエラ出血熱),サビアウイルス(ブラジル出血熱),チャパレウイルス(チャパレ出血熱)などであり,新世界アレナウイルス群に分類される(アレナウイルス科のラッサウイルスは旧世界アレナウイルス群に分類される).アンデスウイルスはハンタウイルス肺症候群の病因の一つである.