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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第69巻(平成28年)第10号掲載)

質問 1:次のビブリオ属に関する記述で誤っているものはどれか.

  • a.腸炎ビブリオは食塩がなくても増殖できる.
  • b.コレラ菌は食塩がなくても増殖できる.
  • c.あるコレラ菌はコレラ毒素を産生しない.
  • d.食品衛生法上のコレラ菌はコレラ毒素を産生する

質問 2:次のボツリヌス菌に関する記述で誤っているものはどれか.

  • a.毒素の耐熱性も強い.
  • b.毒素の摂取により弛緩性麻痺になり,呼吸麻痺をきたすことがある.
  • c.芽胞の耐熱性を基に缶詰・レトルト食品の加熱条件が決められている.

質問 3:次のアレルギー様食中毒に関する記述で誤っているものはどれか.

  • a.マグロ,サバなど赤身魚の喫食が原因となることが多い
  • b.卵,乳(乳製品),小麦などの喫食が原因となることが多い.
  • c.ヒスチジンが細菌によってヒスタミンに変化することが関与する.
  • d.アレルギー体質のヒトに起こりやすい.

質問 4:生の鶏肉からしばしば検出される食中毒菌の組み合わせとして最も適しているのは次のうちどれか.

  • a.サルモネラ,黄色ブドウ球菌,病原大腸菌
  • b.サルモネラ,病原大腸菌,カンピロバクター
  • c.サルモネラ,黄色ブドウ球菌,カンピロバクター

質問 5:次の細菌で毒素型食中毒起因菌はどれか.ただし,生体内毒素型菌を除く.

  • a.セレウス菌(嘔吐型)
  • b.ウェルシュ菌
  • c.腸管出血性大腸菌
  • d.腸炎ビブリオ
解答と解説

質問 1 に対する解答と解説:
正解:a
腸炎ビブリオは増殖するために食塩(塩化ナトリウム)が必要である.近年,漁獲した魚体を洗浄する時,海水から水道水に変更するなどの効果が上がり,本菌による食中毒が激減した. コレラ菌は真水でも増殖できる.毒素を産生する食中毒細菌はすべての菌株がその毒素を産生するわけではなく,その一部の菌株が毒素を産生する. 食品衛生法上のコレラ菌はコレラ毒素を産生する菌株でなくてはならない(実際には毒素を確認しないで公表した例もある.).

質問 2 に対する解答と解説:
正解:a
ボツリヌス菌は嫌気性菌で,芽胞を作り,その芽胞は熱,化学物質などに非常に抵抗性がある.そのため,缶詰・レトルト食品の加熱条件には本菌の芽胞の耐熱性を基に 12D(芽胞濃度を 12 桁減らす)の原則がある. ボツリヌス毒素は非常に強力な神経毒で,麻痺を起こす.一方,この毒素はタンパク質でその耐熱性は強くない.100℃以下で失活する.

質問 3 に対する解答と解説:
正解:b,d
現在問題となっている食物アレルギーとアレルギー様食中毒とは,似て非なるものである.前者は,そば,卵,小麦などに対してアレルギー体質の人が異常に反応して起こる症状である. 一方,後者は赤身魚の筋肉中のヒスチジンが海洋細菌または腸内細菌のもつ分解酵素によってヒスタミンに変化し,これを喫食した人が発症(顔面の紅潮,ほてりなど)する. したがって,このような魚を使った食品(学校給食で多い)を喫食すると,健康な人でも発症する.魚介類では食物アレルギーとアレルギー様食中毒の両者があることになる.

質問 4 に対する解答と解説:
正解:c
鶏肉の刺身または湯引きを喫食してカンピロバクター食中毒事件になる事例がこれまでに多くあった.その他に,鶏肉からは,サルモネラ,黄色ブドウ球菌がしばしば検出される.

質問 5 に対する解答と解説:
正解:a
毒素型食中毒起因菌は食品中で増殖して毒素を産生し,その毒素を含んだ食品を喫食することで発症する.生体内毒素型菌は腸管などヒト体内で増殖し,そこで毒素を産生するタイプで,広義の感染型食中毒菌に入る. 腸管出血性大腸菌は志賀(またはベロ)毒素を産生して重篤な症状を示すが,生体内毒素型菌である.毒素型食中毒菌としては,セレウス菌(嘔吐型),ボツリヌス菌,黄色ブドウ球菌がある.

キーワード:ビブリオ,ボツリヌス菌,アレルギー様食中毒,鶏肉汚染,毒素型食中毒起因菌