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獣医師としての仕事を通じ、家畜改良センターの本来の目的である
改良業務等の業務成績に貢献することができたのは、私にとって達成感のある仕事でした。

家畜改良センター十勝牧場 衛生課 生産衛生係長

出身大学:
帯広畜産大学
卒業年次:
平成16年(2004年)
現在の所属:
独立行政法人家畜改良センター 十勝牧場

卒業後現在までの略歴

平成16年
動物検疫所門司支所福岡空港出張所
平成20年
独立行政法人家畜改良センター十勝牧場 業務第一課 繁殖技術係
平成23年
同 衛生課 生産衛生係

現在の職場に入るまでの経緯を教えてください。

最初は犬や猫が好きで小動物獣医を目指していたのですが、大学に入ってからそれ以外にも幅広い仕事があることを知りました。まずは社会人として組織での勤務をしてみたいと考えたのが、国家公務員を選択した理由です。中でも興味を持ったのが、海に囲まれた日本という国で水際防疫を担う動物検疫所の仕事。大学の研究室の先輩が霞が関勤務をしていたことも、決断をする後押しになりました。動物検疫所に入省してからは福岡空港で防疫の仕事に従事していたのですが、平成20年に育児休暇から復帰するにあたり、夫の勤務地である帯広を希望し、独立行政法人家畜改良センター十勝牧場に異動することになりました。

家畜改良センターでは、どのような仕事をしているのですか?

家畜改良センターは、名前の通り家畜改良やそのための新技術の開発・実用化の研究を行っています。具体的には黒毛和種、ホルスタイン種、めん羊、重種馬の優れたオスをつくることがセンターの重要なミッション。十勝牧場にはおよそ1300頭の家畜がおり、私たち獣医師は診療業務のほか、飼養管理全般のコンサルティング業務、検査業務、防疫業務等に従事しています。通常の産業動物獣医と違うところは、対象が場内で飼養されている種畜やその候補であり、特に貴重な血統や優れた能力を有する種畜である場合には、一般の経済動物では出来ないような長期間治療を継続したり、前例の少ない最先端の治療方法を試験的に導入することもあります。そのように、一般の農家では経済性や煩雑さからチャレンジできない治療を積極的に試せるのは刺激的な環境だと思います。さらにその成果を学会発表したり、帯広畜産大学等の大学に症例提供やサンプル提供して知見を共有することで、学術的な進歩にも貢献することもできます。

仕事の中で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

私が異動してきた当時の十勝牧場は、畜産系の仕事(家畜改良に向けた交配方法や繁殖性の向上等)について秀でていた反面、獣医学を学んだ人材が少ないため、獣医学的視点からは様々な課題がありました。たとえば飼養管理、衛生管理、防疫・治療といった面で必ずしも十分とはいえない状態だったのです。私は獣医師としてこれらの課題の解決に取り組みました。その結果、たとえば子牛の損耗率が当初の10分の1まで低下するなど、目に見える成果を出すことができ、貴重な改良素材の遺失を防ぐことで改良業務等の業務成績に貢献することができたのは、私にとって達成感のある仕事でした。

就職してすぐに産休・育休をとったとのことですが、スムーズにとれましたか?

入省当時、私は新人ながら妊婦でした。その点については職場に対して申し訳ないという気持ちがあったのですが、偶然にも新人研修で3ヶ月齢の赤ちゃんのママ、5か月の妊婦さんと出会い、「私だけじゃないんだ」と勇気づけられました。その後2度の産休・育休を連続して取得し、合計4年間の育児休暇を経て職場に復帰。就職後いきなり4年間のブランクを抱えたおかげで、その後苦労する場面もありました。しかし獣医師になるため6年間大学に通った女性が、二十代半ばで2度出産するというのは、ライフプランとしては決して不自然なものではないこと、社会から理解し受け入れていただきたいと思っています。とはいえこうした働き方は民間企業や開業獣医師であれば難しかったのでは、と思います。女性向けのサポートが充実している農林水産省には本当に感謝しています。

育児と仕事の両立で苦労されたことがあれば、教えてください。

復職後は「育休の間に年齢は重ねているのにスキル・経験は新人のまま」という自分に対して自己嫌悪を覚え、辞めたいと思ったこともありました。しかし今さら逃げるわけにもいかず、必死に頑張っているうちに今の職場でやりがいを見出し、現在に至るといった次第です。育児と仕事の両立においては、私の場合親族等の支えもない状態で現在に至り、時間のやりくりにはかなり苦労しています。

どうやってその苦労を乗り越えられたのでしょうか?

家事も育児も完全に夫婦折半で行ってくれる夫の支えがなければ、仕事を続けることはできていないと思います。そしてもちろん、職場のサポートにも感謝しています。保育園へのお迎えに間に合うためには定時で帰らなければこともありましたが、当時は周りにも幼い子どもを抱えている若い人が多かったおかげで、そうした働き方が理解してもらえたのだと思います。

これから獣医師を目指す学生さんや、現在活躍中の女性獣医師のみなさんに伝えたいメッセージをお願いします!

仕事と家庭の両立は、間違いなく簡単なことではありません。仕事においても家庭においても、周囲に迷惑をかけることはあると思います。時には心無い言葉を発する上司や同僚もいるかもしれません。しかし、育児は未来の創造です。仕事は現在のためだけのものではありません。自分の仕事に責任を持ち、未来の人材を育てながら、未来に続く仕事が自分にできる。そう思えれば、楽しみながら成果のある仕事ができると確信しています。